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ゴンチャローワ、ナターリヤ・セルゲーエヴナ
GONCHAROVA, Natalia Sergeevna
1881年(トゥーラ近郊ナガエヴォ村)−1962年(パリ)
画家、版画家として多くの風俗画、静物画、向像画、風景画、線描画を残し、また、ディアギレフ・バレエ団の舞台美術を手がけ、名声を博す。ラリオーノフの友人として彼とともに、新しい絵画の道を探求し、共同で「光線主義宣言」(1913年)を執筆。モスクワ(1915年まで)及びパリに居住。

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肖像画と白いテーブルクロスのある静物
Still-life with a Portrait and a White Tablecloth
油彩・カンヴァス 80.5×103cm
1920年、教育人民委員部造形美術局(モスクワ)より入手  ZhB-1602

ゴンチャローワは、叙情的な印象主義に始まって、立体=未来主義、光線主義へと至る画風形成の過程でラリオーノフと同じ道筋を辿った。そのいずれの発展段階においても特徴的であったことは、コンセプトが明確な点で古典主義的であり、奇をてらうことのない、内面的にもシリアスな作品が描かれたことであった。他の若手の革新派の画家たちと同じく、ゴンチャローワも、ロシア美術家同盟の印象派の穏やかなオプティミズムや、「芸術世界」の洗練された様式化に対して、世界の不安定感、人間生活における劇的な不協和音に満ちた表現力あふれる芸術を対置させている。
その代表的な作品が《肖像画と白いテーブルクロスのある静物》である。印象主義的な静物画を華麗に、丹念に構成するイーゴリ・グラバーリに論争を挑むかのように、ゴンチャローワは輪郭の定かでない「モデル台」を描く。これは、いくつかのテーブルを寄せ合わせて、テーブルクロスで覆ったもので、その上には、果物、力ーネーションの入った水差し、古い東洋風のタイルが均等に配置されている。奥の壁に立てかけてあるプリミティヴィズム風の肖像画も静物の一部を成す。作品の根底にある意図的な自然さという原則が、詩情とドラマにあふれたイメージを形成する。褐色・黄土色の壁とコントラストを成す、輪郭のぼやけた白と緑のテーブルクロスによって、装飾文様風に細い線で描かれた静物の対象物の角張った神経質そうなシルエットが浮き立っている。
対象の間には、リズミックなリフレインとコントラストの張りつめた力のせめぎ合いの場があるかのようで、それは視覚的には先端の鋭い青い影で強調されている。アナロジーとコントラストの複雑なシステムの中心となるのが、柚薬のかかったマジョリカ焼きの模様であり、その複雑な色合いがこの絵の色づかいのポイントになっている。柔らかくふさふさした本物のカーネーションの花束と、工場で作ったジャガード織りのケープに描かれた異様に大きな花とを絶妙に対比させることによって、自然と芸術の関係、プリミティヴィズム運動時代の美学の基準のめまぐるしい変転を思い起こさせる狙いが隠されているかのようだ。ゴーギャンにもしばしば見られることであるが、謎めいた視線を投げかける緑色の眼を持つ個性的な肖像画を作品のなかに加えることによって、ゴンチャローワはイメージに幾通りもの意味を持たせている。    (V.F.K.)

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自転車に乗る人
Cyclist
1913年
油彩・カンヴァス 78×105cm
1926年、芸術文化館(レニングラード)より入手 ZhB-1600

ゴンチャローワの仕事には、1913年の光線主義の絵画の前に、1912-13年に描かれた、《夜の街》、《工場》といった現代の都市をテーマにした作品群がある。このテーマはアヴァンギャルド文学ではポピュラーになっていたが、ゴンチャローワにとってはまったく新しいテーマであった。これらの作品では、プリミティヴィズムの図式的なフォルム構成が、未来主義的手法によって表情豊かになり、描出された情景の躍動感が強調されている。まさにこうした時期に描かれたのが、《自転車に乗る人》であり、未来主義者たちの間でポピュラーになっていたモチーフに対するゴンチャローワなりの独自の解釈が表現されている。
1912年までは、ゴンチャローワも、立体派と同じく、陽光を思わせるような明色の使用を避けていた。彼女の絵は、ダークブルーや褐色といった、どちらかと言えば、禁欲的とも言える陰鬱な色彩を基調にしていた。ゴンチャローワが再現する情景には物語性が欠如しているのが常であった。玉石の舗道を進んで行く自転車に乗る人が描かれている。その姿は、「NIT」と断片的に読める文字が書かれたガラスケースを通して見たかのような印象があり、ビアホールや、さまざまな工業製品を売る商店、紳士用帽子店の看板を掲げた建物を背景にして描かれている。
さらに、ロシアの立体=未来派が多用したように、広告のテキストが断片的に再現され、それによってイメージの運動感が強調されている。言葉や絵を断片化することによって、単なる装飾的なディテールや、あるいは未来主義的な手法の要素を超えて、鑑賞者が疾走するときに見る街の風景となったり、あるいは、おそらく、猛スピードで疾駆する自転車に乗る人の、眼の端に映った光景になっている。この背景が静止状態を保つことによって、躍動感のほうはより強調されている。その一方で、細い直線で図式的に描かれた人間の姿、そして、頭、背中、車輪、ハンドル、チェーンなどのシルエットをだぶらせて描くことによって、自転車による走行の単調さを表わしている。ゴンチャローワは新しい美学―車とスピードの時代の美学を形成した巨匠の一人である。           (V,F.K・)

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洗濯女たち
Washerwomen
油彩・カンヴァス 75×103cm
1979年、K.B.オークネワ(レニングラード)より入手  Zh−9741

《洗濯女たち》は1900−10年代におけるゴンチャローワのプリミティヴィズム絵画の代表作である。同じような傾向のロシアの画家たちが、大都市や地方の小市民の美学や世態風俗からインスピレーションを得ていたのに対し、貴族の名家の出身で、偉大なる詩人アレクサンドル・プーシキンの家系にも連なるゴンチャローワは、19世紀の国民芸術の中でもっとも頻繁に扱われた農村のテーマに取り組んだ。
ゴンチャローワの作品にあっては、農村の主題につきものの社会的な視点が欠落している。ゴンチャローワは、刈入れ、収穫、麻布の漂白、洗濯といった「遠い昔から」営々と繰り返されてきた村人たちの仕事に関心を寄せている。「時間を超越した」これらの情景には、長大な物語性があるわけではなく、登場人物たちは自らの世界に浸りきって、時折、聖務を執り行っているかのようにも思えて、大昔から続いてきた独特の神聖な儀式を見ているかのような感覚に襲われる。
意図的に「簡略化された」人物の腕、足、体躯の重量感もこの感覚を強める素地になっている。このような様式のなかに、ゴーギャンの「タヒチ」絵画の影響を見るゴンチャローワ研究家も多い。しかし、その絵を見ると、ゴンチャローワがロシアの民衆版画「ルポーク」や、20世紀初頭にロシアの広野(ステップ)で発見された古代スキタイ民族の古代彫刻「スキタイの女たち」にどれほど惚れ込んでいたのかがわかる。華やかな極彩色の南ロシア風の衣裳をまとった女性や少女たちといった絵の登場人物たちは、神秘的で、落ぢ着きはらった顔をした蘇ったスキタイの彫像を思わせる。
また、この作品には、プリミティヴィズム絵画にありがちなグロテスクな感じやわざとらしい低俗さはなく、ゴンチャローワは農婦たちの風貌のなかに疲労感とともに、優しい女性らしさも漂わせ、鮮烈で洗練された色彩によって、伝統的な民俗衣裳の美しさを際立たせている。《洗濯女たち》は卓越した構成力の見本ともいうべき作品である。作品を織りなすフォルム、線、色面、そのことごとくがリズミックに「韻を踏み」、社会秩序の英知について、あるいは大地とその子たちの美しさについての思いを表現するために動員されているのだ。           (V,F.K.)
Cat.no.12 肖像画と白いテーブルクロスのある静物
Cat.no.13 自転車に乗る人 1913年
Cat.no.14 洗濯女たち


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